今日の書評


太宰 治 『女生徒』 角川文庫


太宰作品を読んだのは『斜陽』『津軽』『人間失格』に続き4作品目。


『斜陽』もかなり好みでしたが、この『女生徒』も私は好きです。



というのも、これは女性が主人公の短編小説を集大成にした作品集なのですが
女性の視点をとてもうまく捉えている。


男性が綴ったような内容には思えない、のですが
よくよく考えてみると男性だからこそ、ここまでリアルに女性らしさを描けているように思われてきます。


当時の女性特有の羞恥心やいじらしさ。
向上心と世間との葛藤にさいなまれた女性の身分。


それが「さらり」と心地よく読者に届く。


たぶん、ですが。
当時の女流作家ではこのような女性らしさを描くことは出来なかったのではないかと思います。


なぜならば、男性中心の昭和初期時代であるから。
女性が求めていたのは性の平等であり、男性のような勇ましさだったはず。

つまり、このような女の柔らかさや女の駄目っぷりというのは当時の女流作家があえて描く対象ではなかった。


それだけにこの太宰の作品はある意味でとても新鮮でダイレクトに女性の生き方を示しているように感じられてなりません。


それからこの作品に登場する女性は皆、理知的な存在です。
確かに行為としては女の駄目っぷりを発揮しているかもしれませんが
その根底に流れる意志の強さというものがどの作品にも共通して見られるのです。


かわいらしい。いじらしい。
やわらかい。あたたかい。

そんな形容詞が似合う女性が主人公と太宰独自の独白形式が女性の内面をありありと覗かせています。


べたほめしてるので周知だと思いますが私は結構この『女生徒』が好きです。