ミス スタレ

先日、中井にある大学で後輩君と待ち合わせた。
中井は西武新宿線各駅か大江戸線で行く、ちょっと生活に疲れた感じのするところ。


とても新宿っぽさがにじみ出ていて、いい街だなあっと思わず声に出して言っていた。



路地裏に入るとママチャリで買い物に出ている“女”を引退した様相のおばさんがいる。
利益や向上なんてあまり興味がなさそうなお豆腐屋さんがある。
昭和を感じさせるスナックや、反面で似つかわしくないほどキラキラ光る川が走っている。


そんな街を徘徊していたら、目の前からやってくる女子大生が「きゃー!!」と叫んでいた。


どうやら、襤褸アパートの階段にいた少年(3歳くらい)が突然ジュースを女子大生たちにぶちまけたらしい。


お洒落に着込んだ数人の服にはジュースの染みが広がっていて
でも子どものやることだけに彼女らは文句が言えない様子。


何食わぬ顔でその場を通りすぎた私が観たのは、その少年の母親だった。


さっきの場面、一部始終観ていたらしい。
だけど注意もせず、叱りもせずに少年にこちらへ来るようにと促していた。


この母親、私は“ミス廃れ”コンテストがあったら優勝間違いなしの風貌だと思った。


新宿で男を何人も観てきて、ため息と諦めを知っていて、この子どもも成り行きで出来てしまった感じ。
きっとせまい襤褸アパートに住んで収入の少ない亭主と人生をなんとなくやり過ごしているのだ。


浦沢直樹の「MONSTER」にこんな感じの娼婦がいたな、と思い出したら妙に嬉しくなってしまった。


こんなショートストーリーが垣間見られた今日は幸せだなぁとなんとなく思った。



世間がどうとか、事件がどうとか、子どもがどうとか。
こうした先入観やバイアスのかかった価値観で人を見るんではなく、この街に似合うからいい、という見方。


私が好きなんだからいい、みたいな開き直りが気持ちいい。



普段はこんな風にすんなり開き直りが出来ないから(子どもの教育はこれじゃダメ!とか)
たまにはこうして自分の好きなものを堂々と好きって言おうと思う。



“ミススタレ”が住む中井はきっともっと面白いに違いない。